「人生100年時代」と言われ、定年後も元気に働き続ける方が増えています。年金を受け取りながら、副業やパートタイムで収入を得ることは、生活の充実や経済的な安定につながります。しかし、働き方によっては年金の支給額が減ったり、新たに社会保険料の負担が発生したりする「壁」が存在することをご存知でしょうか?
この記事では、年金を受給しながら働く際に知っておきたい収入の「壁」と、働き損にならないための制度の基礎知識について、公的機関の情報を交えながら分かりやすく解説します。ご自身の状況に合わせて賢く働くためのヒントを見つけてください。
1. 在職老齢年金の「壁」:働きすぎると年金が減る?
特に注意したいのが、60歳以上で厚生年金に加入しながら(=会社員や公務員として働きながら)老齢厚生年金を受け取る場合の在職老齢年金制度です。これは、「基本月額(老齢厚生年金の月額)」と「総報酬月額相当額(月給+直近1年間の賞与÷12)」の合計額に応じて、年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。
【ポイント】
- 支給停止の基準額: 令和6年度(2024年度)現在、合計額が50万円を超えると、超えた額の半分の年金額が支給停止となります。
- (例)基本月額が15万円、総報酬月額相当額が40万円の場合
- 合計:15万円 + 40万円 = 55万円
- 支給停止基準超過額:55万円 – 50万円 = 5万円
- 支給停止額(月額):5万円 × 1/2 = 2万5千円
- この場合、本来15万円もらえるはずの老齢厚生年金が、12万5千円に減額されます。
- (例)基本月額が15万円、総報酬月額相当額が40万円の場合
- 対象となる年金: 調整の対象となるのは老齢厚生年金です。老齢基礎年金は、収入にかかわらず全額支給されます。
- 70歳以上の方: 70歳以上で厚生年金適用事業所に勤務する場合も、厚生年金保険の被保険者資格は失いますが、在職老齢年金の仕組みは適用されます。
※在職老齢年金の具体的な計算方法や最新の情報については、日本年金機構のウェブサイトで確認できます。「在職老齢年金の計算方法」などのキーワードで検索してみてください。
(参考)日本年金機構ウェブサイトより
- 在職老齢年金制度では、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が一定基準額(令和6年度は50万円)を超えた場合に、年金額の一部または全額が支給停止となります。
2. 社会保険(健康保険・厚生年金保険)加入の「壁」
パートやアルバイトとして働く場合でも、一定の条件を満たすと勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入することになります。これまで国民健康保険やご家族の扶養に入っていた方は、新たに保険料負担が発生します。
【社会保険の主な加入基準】
以下の条件をすべて満たす場合、社会保険への加入が必要となります。(企業規模によって一部基準が異なります)
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(年収換算 約106万円)
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない(※休学中や夜間学生等は加入対象となる場合あり)
- 勤務先の従業員数
- 従業員数101人以上の企業: 上記1~4を満たせば加入
- 従業員数100人以下の企業: 労使合意があれば、上記1~4を満たす場合に加入可能(2024年10月からは従業員数51人以上の企業が対象に拡大予定)
【いわゆる「130万円の壁」とは?】
上記の「106万円の壁」とは別に、家族(配偶者など)の社会保険の扶養に入る基準として「年収130万円未満」という基準があります。年収が130万円以上になると、扶養から外れ、自身で国民健康保険や国民年金に加入するか、勤務先の社会保険に加入する必要が出てきます。
【メリット・デメリット】
- メリット: 厚生年金に加入することで将来の年金額が増える。健康保険の保障が手厚くなる場合がある(傷病手当金など)。
- デメリット: 給与から社会保険料が天引きされるため、手取り額が減る。
※社会保険の加入基準の詳細は、厚生労働省のウェブサイトや日本年金機構のウェブサイトで確認できます。「パート 社会保険適用拡大」などで検索すると、最新の情報が見つかります。
(参考)厚生労働省ウェブサイトより
- 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大が進められています。週の所定労働時間や月額賃金などの要件を確認し、自身が対象となるか把握することが重要です。
3. 雇用保険加入の「壁」
雇用保険は、失業した場合などに給付を受けられる制度です。パートやアルバイトでも以下の条件を満たす場合は加入義務があります。
【雇用保険の主な加入基準】
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
雇用保険料は給与から天引きされますが、負担は社会保険料ほど大きくありません。万が一、仕事を辞めた場合に失業等給付を受けられるというメリットがあります。
※雇用保険の加入手続きや給付については、ハローワーク(公共職業安定所)のウェブサイトや厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
4. 税金の「壁」
年金収入も、副業による給与収入や事業収入も、所得税や住民税の課税対象です。収入が増えれば、その分税金の負担も増える可能性があります。
- 年金収入: 公的年金等控除がありますが、一定額を超えると課税対象です。
- 給与収入: 給与所得控除があります。
- 合計所得: 年金収入と副業収入などを合算した所得に応じて税額が決まります。
自身の所得控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除など)を考慮して、どの程度の税負担になるか把握しておくことも大切です。
※税金の計算や控除については、国税庁のウェブサイトで確認できます。「確定申告」「公的年金等控除」などのキーワードで調べてみましょう。
まとめ:自分の状況に合わせて働き方を調整しよう
年金をもらいながら副業をする際には、主に以下の「壁」を意識する必要があります。
- 在職老齢年金: 年金(老齢厚生年金)と給与・賞与の合計が月額50万円を超えると年金が減額される。
- 社会保険: 年収約106万円(月額8.8万円)や週20時間労働などの基準を満たすと、社会保険への加入が必要になり、保険料負担が発生する(ただし保障は手厚くなる)。年収130万円を超えると家族の扶養から外れる。
- 雇用保険: 週20時間労働などの基準を満たすと加入が必要(保険料負担は比較的少ない)。
これらの制度を知らずに働くと、「収入は増えたけれど、年金減額や保険料負担で手取りが変わらない、むしろ減ってしまった」という「働き損」になりかねません。
大切なのは、ご自身の年金額や希望する収入、健康状態などを考慮し、これらの制度を理解した上で働き方を計画することです。
- 事前にシミュレーションする: 年金事務所や社会保険労務士などの専門家に相談したり、ウェブサイトの情報を活用したりして、収入が変化した場合の年金額や手取り額を試算してみましょう。
- 勤務先に相談する: 勤務時間や日数を調整できないか、社会保険の加入についてなど、事前に勤務先とよく相談することも有効です。
制度を正しく理解し、ご自身にとって最適な働き方を見つけることで、年金受給後の生活をより豊かに、安心して過ごせるようにしましょう。
【免責事項】
この記事は、年金制度や社会保険制度に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の状況に対するアドバイスではありません。制度は改正されることがありますので、必ず日本年金機構、厚生労働省、国税庁などの公的機関が提供する最新の情報をご確認ください。具体的なご相談は、年金事務所、ハローワーク、税務署、または社会保険労務士、税理士等の専門家にお願いいたします。
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