(エピソード)会社説明会と面接での社長との出会いの中が自分の目指すものをみつけるきっかけになったGさんの場合

会社説明会の社長の話が全ての始まりだった。就活を通じて夢を持つことの重要さを知った

社長自らの熱いマイクパフォーマンス

「何かに取り組むためには目標を定め、心を決めることです。例えば受験。『自分は絶対、東大に合格するんだ!』と決めたとします。そうやって心に決めて試験勉強に取り組んで、そこで初めて合格する人と落ちる人に分かれます。初めから決心していない人は絶対合格しません」

ある企業の会社説明会で社長自らがマイクパフォーマンスしながら言った言葉である。彼はさらに続けた。

「例えばスポーツ。『自分は絶対、全国大会に出場するんだ!』と決めて練習に勤しんでいる選手はたくさんいますよね?しかし、それで出場できる選手とそうでない選手に分かれてしまう。目標も持たずに取り組んでいる人が全国に行くことは絶対にない。試験だって受かりません。就職活動も同じです。だから半端な気持ちで取り組んでほしくないです。弊社に来る来ないは別にして、明確なビジョンをもって就職活動してください」

わたしはこの時は特に何も感じなかった。どちらかと言うと説教くさくて暑苦しいと感じた。言っていることも当たり前のことだし、会社説明会ごときでわざわざ社長が出てくることに自己主張が強すぎると感じた。

「こういう会社に入社したら、その後が大変そう」

と敬遠したほどだった。

その日の説明会を思い出してみた

帰宅してベッドに横になりながら、不意にその日の説明会での話を思い出した。そして、ふと考えた。

「あの社長はどうして応募前の学生の前であんなに説教っぽい話をしたのだろう?学生が引いてしまうとは考えなかったのかな?」

そして、体を起こしてその企業のHPにアクセスした。その時は単なる気まぐれだった。

やはり別段どうということはない。会社概要を見ても会社所在地や事業内容等の無難な内容しか載っていない。そして、そのまま下にスクロールしていくと過去5年の業績が載っていた。

「上場企業でもないのに、なぜこんなものを載せたのだろう?」

そう思って他のページもよく見てみた。今日会った社長が就任したのが5年前。つまり新社長になってからの業績が載っているようだ。すごい!5年間、右肩上がりである。

「やっぱり自信家で自己主張が強い人なんだなぁ」

そう思いながらも、その一方で羨ましくも感じた。

(自信かぁ・・・)なぜか急に胸に虚無感が去来した。

「わたしは人に目標を持って何かに取り組むことを勧められるだろうか?そんなに自分に自信無いよなぁ」

中高生の頃、部活で後輩に努力を訴えてきた。でも、「自分は言うほど努力していないな」とわかっていた。いつも自分の言うことは誰かの受け売りで、上げる成果もいつも人並。つまり、たくさんの中の一人でしかなかった。

そんなわたしが上から目線で後輩に努力を訴えたところで、どうせ誰にも響かなかっただろうし、むしろ滑稽に映っていたかもしれない。

(このままなんとなく社会人になってしまうのかなぁ?)

なんだか急に自分のことが薄っぺらく思えて、嫌悪と悲哀がこみ上げてきた。

運命の最終面接で社長が目の前にいた

自分自身はそんな状態だったんだけど、この会社は順調に話が進んで、最終面接を受けることになった。社長も面接官として目の間にいる。社長は開口一番私に、会社説明会のことを語りだした。

「会社説明会の時、あなたはウチを受けるだろうと思っていましたよ」

と社長は私に言った。

「もう忘れているかもしれませんが、3列目の一番右端に座っていたあなたは、ただ一人会場を出る時に振り返って私の顔を見てから出て行ったんです」

と微笑を浮かべて言った。

「私はどんな顔をしていましたか?」

わたしは驚いて面接らしくない質問をした。

「『この会社に入ったら大変そう』といった顔をしていましたよ」

と社長はにこにこ笑って言った。

「え?」

図星だった。

「それならどうしてこの会社に応募すると思ったんですか?」

わたしにはわからなかった。

「どうしてだろ?私にもわかりません。ただの勘だから」

社長はイタズラっぽく笑っている。

「勘ですか・・・」

わたしは少しガッカリした。

 ムシの良い話だが、わたしに何か感じるものがあったのだと一瞬期待したからだ。

「勘では不満ですか?」

と社長は優し気な顔で訊いてきた。

「いえ、何と言うか、その・・・。少々頼りない響きに思えたもので・・・」

わたしは(何を言っているんだろう?)と思いながら発言を後悔した。

「確かに『勘』と言うと確信に至らない弱い印象ですよね。でもこれは経験則に基づく根拠があるから働く感覚なのですよ。だから甘く見てはいけない。現にあなたは弊社を最終面接まで受けに来てるでしょ?」

と笑い、

「さて、では弊社を受けた理由を聞かせてください。正直なところを」

と条件を付けて志望動機を訊ねてきた。

わたしは少しとまどった。でも、この社長に対してはキレイ事ではなく、本当のことを話そうと思った。それこそ『勘』だが、わかってくれそうな気がしたためだ。

「わたしはあの日の話を聞いて、社長からは自信を感じて自分には疑問を感じたんです」

社長は笑うのを止めて、今度は真剣な顔で私の話を聞き始めた。

「最初は社長の言う通り、『入社したら大変そう』と思いました。でも、『目標がない人間は何をやっても大変に感じるのではないか?』と思ったんです」

社長はわたしの話にうなづきながら、

「どうぞ続けてください」

と先を促した。

「何かしたいことがあるわけではなく、時期が来たから就職活動を始めただけでした。たくさんの企業に訪問して色々な話を聞きましたけど、何をしたいのか未だに答えが出ておりません」

ここで私は少し沈黙してしまった。涙目になっていたかもしれない。

社長は黙ってわたしの目を見て聞いている。そして、

「大丈夫ですよ。考えがまとまるまで待ちますから」

とわたしの沈黙に配慮してくれた。

「社長の言う『明確なビジョン』を持てずに就活していました。今日も最終面接だというのにそのままここにきてしまいました。ですから御社を受けた理由に満足のいく答えを持っておりません。申し訳ありません」頭を下げた私は顔を上げられなかった。

今度は社長が少し沈黙して、静かにこう言った。

思いがけない社長のはなし

「今度は私が話していいかな?」

「お願いします」

「私も社会人になった時、何も持っていませんでしたよ。面接の時も建前を並べただけでした」

「え?社長もですか?」

わたしは怪訝に感じた。

「そうです。入社してからも毎日ダラダラと同じことの繰り返しで、いつも辞めたいと思っていました。そうしているうちに3年くらい経ってしまったんです。すると今度は辞めるのが勿体ないと思うようになってきましてね。そこからですよ。『ここまでやったなら、この会社でどこまで成長できるか試してみようかな?』と考えるようになったのは。それでもまだ『明確なビジョン』とか『確固たる決意』なんて持てていませんでした」

わたしは膝の上でハンカチをギュっと握りしめながら、社長の話を一言も聞き漏らすまいと身を乗り出していた。 

「若い頃の私はたぶん頑張りたかったんです。ただ頑張りたい何かが見つからなかったから毎日がつまらなかったんです。だから小さなことでも良いから、目標を持って仕事に臨むことにしたんです。達成のために創意工夫を重ねました」ここで社長は優しそうに微笑みながら、「社長になった今でも前年度実績は必ず超えると目標に掲げています。若かった頃よりずっと楽しいですよ」

「楽しいのは、やっぱり目標を持ったからですか?」

わたしのこの質問に社長は少し照れくさそうに笑いながら、

「クサイから『目標』と言ったけど、実は『夢』を持つことが楽しいのだと思う」

なぜかこの言葉には打たれた。

さらに社長は続けた。

「『事業計画もない企業の業績が上がるわけがない』、『未来予想図の描けない経営者が企業を成長させられるわけがない』と思っているので、事業計画とか未来予想図という『夢』を持つことにしています。夢が実現することが楽しいのです」

わたしは顔を上げて訴えた。

「わたしはずっと飢えや渇きを感じているんです!でも御社に入社したら、満たしてくれる何かを見つけられるような気がします!だからどうか前向きにご検討ください。よろしくお願いいたします!」と勢いよく頭を垂れた。

面接らしいコミュニケーションはなかったが、勝手にこの言葉が口から発せられていた。

自分が何を『夢』とするかはまだわからないが、瞬間的に『夢を持つこと』が自分にとってまず最初の答えになった。そしてこの会社ならそれを見つけられるような気がした。

新入社員歓迎会の会場で

その後、わたしは無事その会社に入社することができた。そして新入社員歓迎会の会場で社長と話す機会があった。

「あの時のあなたの言葉は取って付けたような物言いではなく、自然で必死なものだったね」

と社長はわたしに言った。その時にわたしは自分の就活にとても満足した。

夢を持つことは人生を楽しむこと、心に決めることは達成のための第一歩

キャリアコンサルタントより

 前回のエピソードから続き、出会いだけでなく『目指すもの』の大切さを教えてくれるお話だったと思います。そして世の中には名伯楽は必ずいて、理想や志を持つ人ほど、そうした人との出会いに気づき成長を促進させています。

人生には分岐点がいくつも現れますが、とりわけ大きな分岐点は資質を伸ばしてくれる人物との邂逅があるように思います。

ただ、思い違いしてほしくないのは、人は相手への尊敬や敬愛の想いを持っていれば、その人物から多くのものを得られます。つまり、数ある分岐点で飛躍できるかどうかはどれだけ多くの人を敬えるかで変わってくるということです。

別の言い方をすれば、謙虚な人物ほど成長するということになるでしょうか。

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【執筆者】
キャリアコンサルタント(国家資格)
(2級キャリアコンサルティング技能士)
久保 知博

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